2022年8月25日 10:49
私と高校野球(4) ―― 合宿練習の思い出 ――
八尾高校野球部 元監督 伊藤 敏幸
ドラマにクライマックス(山場)があるように、一年間の練習の中にも「山場」が必要であると考えていました。
それが「合宿練習」でした。就任当初は、夏大会直前に「チームの結束」ということを目的に数日間行っていましたが、数年後からは当時の高岡商業さんの合宿練習を参考に、5月末から6月上旬にかけての一週間、「個々の強化」、「これまでの自分を超えること」を目的に行うことにしました。
具体的には、5泊6日の合宿生活のなかで、朝6時半からの10キロタイムトライアル、放課後は個人ノック中心の練習、そして夜のミーティングと学習。もちろん普段どおりの授業と並行しての合宿練習です。
授業中に居眠りをしていたとの報告があれば、即刻、合宿所から出て行ってもらうと言ってありました。が、そのような報告を受けたことは一度もありませんでした。
先生方にわからないように、うまく寝ていたのかもしれませんが…。
朝のタイムトライアルにはわたしも走りました。若かったし、走ることには多少の自信もありました。
中継点まではどんなことがあってもトップでいることを常に心がけて走りました。そんな走りを見て、生徒たちは度肝を抜かれたことと思います。中継点を過ぎると疲れからということもありますが、いわば意識的にペースを落とし、どんどん追い抜かれることにしました。それがわたしの作戦でした。誰ががんばって追い抜いていくかチェックすることができたからです。
しかし、それでもわたしに追いつけない生徒もかなりいて、なかには「なんとか監督に勝たなければ」と思い、3年生の最終日にようやくわたしに勝ち、喜びを爆発させていた生徒もいました。
一方、放課後のグラウンドには独特の雰囲気がありました。個人ノックをする側もノックを受ける側も緊張感がみなぎっていました。
この練習の大切さを身をもって理解してくれているOBたちがノッカー役として、それも現役の生徒たちに失礼のないようにユニホームをしっかり着てかけつけてくれました。
内外野で数カ所に分かれてノックが始まります。一応ノルマは100本となっていますが、双方の気持ちと気持ちがぶつかり合ってそれだけでは終わりません。200本、300本と続きます。フラフラになりながらもボールを追いかける生徒、大声で気合いを入れるノッカー、グラウンドのあちこちで修羅場のような光景が展開されます。
これが毎日続くのです。それでも生徒たちはみな、個人ノックの苦しみを乗り越えました。
ノックを終えた者のなかには達成感からか、泣いている生徒もいました。まさに「これまでの自分」を乗り越えた「新たな自分」との出会い、そのような自分に「自信」と「誇り」をもち、「プライド(意気地)」を強くしていきました。
合宿練習によってチームが飛躍的に強くなったとは言えませんが、やってきたことに悔いを残すことなく、全員で夏の大会に突入していけたと思っています。
(令和 3年 6月 19日 記)